ジオパークの魅力 硫黄島の植物編 #01

はじめまして

棚次理(タナツグ オサム)と申します。職業は、三島村硫黄島地区の地域おこし協力隊です。村の要請でジオパークのお手伝いをしています。お手伝いの内容は、デザインや美術の仕事経験を活かしたものです。また、いわゆる『コンセプトワーク』という、プロジェクトのゴールを設定して形にする仕事も行っています。いま手がけている仕事は、ジオサイトの看板デザイン、カレンダー、HPづくり、資料室の改修工事、ジオガイドづくりの準備など。

仕事の数でわかるとおり、ジオパーク事業は活発です。しかし、その多くは、ものが完成するまで活動の様子が見えません。そこで、少しがんばってHPをつくりました。ここではジオパークの活動や、そこでみつけたジオパークの魅力について、皆さんにお伝えしたいと思っています。

 

風景が魅力的に見えてくる

ジオパークの活動をしていると専門知識に触れる機会が増えます。正直、敷居は高いです。ただ、せっせと調べてなんとかやってると分かってくることもありまして、それが面白くもあります。そんなわけで、ジオパークの魅力について考えた時に、まっさきに浮かんだのが、硫黄島の植物の話でした。第一回は、このことに触れようと思います。

硫黄島の植物について『鹿児島県竹島と硫黄島の植生と硫黄島の植物相』*1という論文があります。私はこの論文を読んで島の植物がほんの少しわかるようになって、島の風景が楽しくなりました。

花を知ると季節の訪れに気づくように、私たちは知ることで、何気ない風景に潜む物語を発見できます。島に来た人や住んでいる人が、この記事をたよりに島の風景を楽しんでもらえると幸いです。

*1『鹿児島県立博物館研究報告(第 17号) 1~33 1998 鹿児島県竹島と硫黄島の植生と硫黄島の植物相 寺田仁志』

 

遠くから見る硫黄島

では植物について。マクロとミクロの視点が混在するのがジオパーク。今回はマクロな視点から始めましょう。

これは硫黄島を東からながめた写真。島を遠くから眺めると生息する植物の特色がわかります。写真中央には島の火山『硫黄岳』があって、中腹から頂まで植物が生えていません。どういうことでしょう?この特色は地質に由来します。

ここ硫黄島は、7300年前のカルデラ噴火でできた外輪山の一部です。そして、島の火山硫黄岳は、カルデラ噴火から約2000年後(5300年前頃)に、新たに発生した火山です。(詳細は『ジオパークとは』をご覧ください)硫黄岳はいまも活動中で、元気にガスを吐いています。ガスは酸性雨の雲を生み、その雲が、時々火山の上半分を覆うので、そこは不毛の地となっているのです。

このガスが生んだ雲は、島に酸性雨を降らせます。硫黄岳のおかげで島に生育する植物は限られ、特色のある植生になってるようです。この特色は、島全体を見ると一目瞭然。上から見てみましょう。

これは、硫黄島の植物集団を図にしたものです。先ほど紹介した論文から転載しました。地図の右端が写真に写っていた箇所です。硫黄岳の頂から同心円状に植物が生えてません。そのふちの濃い緑は『シャシャンボ – クロキ群落』。黄緑は『マルバサツキ – ハチジョウススキ群落』でした。オレンジは竹で『リュウキュウチク群落』。島では大名竹と呼びます。集落周辺の茶色が『クロマツ群落』。点在する黄色は『ハチジョウススキ群落』。赤は『牧草地』です。

ここに挙げた植物は、ちょうど定期船からよく見えます。島に暮らす人は、この図で船上の風景が目に浮かぶことでしょう。こうして遠くからかたまりで見ると単純な植生ですが、近づいて観察すると、また違う風景が見えてきます。

 

集落の植生

では、船を降りて、硫黄島へ入ってゆきましょう。集落内は、遠目に分からない植物もあって、小規模ながら種類豊富な状態です。論文の3ページ目『Ⅱ植生外観』には、次のように記されています。

『集落内には台風に強いモチノキやハマヒサカキ、 ガジュマルなどを植林した屋敷林があり、またきわめて小規模ながらアコウーガジュマル群落なども点在する。』

なるほど集落の植物には防風林の機能があるようです。年中強風が吹く島の環境を考えると納得します。では、そんな「モチノキ」「ハマヒサカキ」「ガジュマル」「アコウ」は、いったいどこに?それぞれの特徴を調べながら探してみました。

 

モチノキ

強風に耐えるモチノキは、常緑性で高さ10~20mほど。日本では暖かい地方の海辺に分布するそうです。名前の由来はトリモチを作れることから。4月頃に薄黄色の花を、11~12月には1cm位の赤い実をつけます。モチノキは村の史跡のひとつ黒木の御所にありました。

いまは3月ですから、葉を探す手がかりにしました。モチノキの葉は、大きさ5~10cmで互生(ごせい)ふちは全縁(ぜんえん)とのこと。『ごせい』?『ぜんえん』?こういうことです。写真をご覧ください。『互生(ごせい)』は、葉の配列状態を意味します。茎のひとつの節に葉が一枚づつ、異なる向きでつく状態のことです。『全縁(ぜんえん)』は、葉の縁が滑らかなことです。

集落のモチノキについて、島出身の60代の方に昔話を聞いたので紹介します。モチノキは島の呼び名で『ヤンモ』『ヤンモチの木』。今から50年以上前、このモチノキでトリモチをつくって、メジロ、ヒヨドリ、ツグミ、ヤマバトなどを捕まえたそうです。焼いて砂糖醤油で食べていました。メジロより大きな鳥は、肉があってうまかったそうです。ただし山鳩の捕獲は難しかったとか。小学校から中学校までやっていたそうです。

なお、トリモチ作りには大量の樹皮を消費します。木が傷むので、剥ぐとまず大人に怒られるそうです。① 皮を剥いで石でついて外皮を粉砕する。② 砕けた外皮を潮だまりで洗い流す。この作業を繰り返すと、粘った木の汁が残るらしいです。子供達は、作業中にトリモチが沢山残るように『ながれるな ながれるな ながれたひとはみてみらん』といった唄をうたっていたそうです。

50代の人の話も聞いてみました。40年ほど前の話です。黒木の御所の道を奥に行くと、こんもりとした林があって、そこにもモチノキの木があったとか。それで奥に行ったら、ありました。しかも花が咲いてました。撮影は3月21日。ご覧ください。

ただ、そこには畑があって、子供が来ては畝をこわすので、入ると怒られたそうです。ここのトリモチで遊ぶ子供達は怒られてばかり。なお、ヤングジェネレーションは、獲った小鳥を食わずに、カゴにいれて飼っていたそうです。優雅ですね。集落の植物は、暮らしのエピソードも聞けて面白いです。

 

ハマヒサカキ

論文では屋敷林のひとつ。なるほどハマヒサカキは住居跡で目撃します。自宅の近所でパチリ。ツツジ目モッコク科の常緑性で、高さ2~6mと背が低い。分布は千葉県以西から沖縄の海岸付近だそうです。

ハマヒサカキの葉は、2~4cmで丸くてツヤあり、ふちは浅い鋸歯状。特徴があるので見つけやすいです。

集落には同じヒサカキ属の『ヒサカキ』も多く、こちらはお墓や仏壇へのお供え、または神事に使うので、生活によく登場します。葉の密集具合や花のつき方はハマヒサカキに似てますが、こちらの形は楕円形で先細り。サイズも一回り大きくて3~8cm。先っぽの丸く割れた形が特徴ですね。

花が咲いてました。撮影日は3月21日。

ヒサカキも集落の至る所で見ます。こちらは神社の境内。(左手低木)

お墓にもいたる所に。

 

ガジュマルとアコウ

ガジュマルとアコウは見た目が派手なので、集落のあちこちで目にとまります。どちらもクワ科イチジク属で、亜熱帯から熱帯の常緑高木です。種は鳥やコウモリのフンに混じって移動。木の上で発芽すると、気根という根で宿主を絞め殺します。

気根は、写真中央のヒゲの部分。見えますか?

そして、これは集落のガジュマルとアコウ。見た目も生態もよく似てます。見分けがつくでしょうか?

答えはAとDがガジュマルで、BとCがアコウです。アコウは新芽を出す前に不定期に葉を落としますが、Cはその状態です。

見分け方ですが、葉の形が全く違います。ガジュマルの葉は、小さく厚い。葉脈の目立たない唇のような輪郭です。アコウの葉は葉脈がはっきり。薄く大きな長楕円形です。実のつき方も違って、ガジュマルは葉の付け根に赤い実が、アコウは枝にびっしり実がなります。

『ガジュマルの葉』

『アコウの葉』

散策して、二つを見分けるのも楽しいかもしれません。などと語っているうちに、もうこんな分量です。ヤブツバキ、リュウキュウチク、クロキ… 島の代表的な植物がまだまだ紹介されてませんが、ここでひとまず終了です。

 

まとめ

皆さんは、退屈な景色の前で科学者が興奮している姿を見たことはないでしょうか?私はそういう人をジオパークで見かけます。そのとき人は、彼らの姿を見て「あの人は勉強しすぎて頭がおかしくなったのだ」と笑います。私も笑う側でした。しかし、最近は私も笑われる側になりつつあるようです。というのが、彼らの気持ちがわかる気がするからです。

頭がおかしくなる前に記録しますと。どうやら科学者は、その知識で、私たちの見ているものとは尺度の違う時間や空間を見ているようなのです。

例えば、植物の知識があると、その種類を見るだけで、そこがどんな環境なのかをぼんやり想像できます。さらに詳しくなれば、育ち具合で過去の出来事があらかた分かるようです。

そんな具合にどうやら科学者は、風景を見ながら彼がそこに来る前に起こった出来事を、時間や空間を飛び越えて見ているようなのです。ちょっと驚きですよね。でもそんなことで幸せになれるなら、なってみたいと思いませんか?ここはそんな場所です。




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