ウエディの硫黄島滞在記3「外来種って何でしょうか?」前編

2018年から硫黄島に通ってくれている大学生ウエディが、硫黄島で行ってきた調査のことを寄稿してくれました。今回は第2回目です。「外来種って何でしょうか?」というテーマで書いてくれました!前後編の2記事にわたって書いてくれましたので、ぜひ見てください!

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こんにちは。ウエディです。

突然ですが、硫黄島にはインドクジャクが住んでいます。
え?日本にクジャクがいるの?しかもインドクジャクってなんで?と疑問が浮かぶと思います。
インド出身のクジャクがなぜ硫黄島に住んでいるのでしょうか?

前回の投稿ではなぜ硫黄島にクジャクがいるのか書いていなかったので、今回はそこから書かせて頂きます。

高度経済成長期に硫黄島では離島リゾートが作られました。その際に観賞用としてインドクジャクが島に持ち込まれました。その後、リゾート開発会社が撤退の際に、クジャクが野に放たれ、そこから野生化し始めたそうです。

このように、本来生息していない場所に入ってきた生物を外来種といいます。日本に住んでいない生物が持ち込まれて定着するのはもちろんのこと、日本国内であっても生息していなかった場所に新たに持ち込まれ、定着してしまうことも含まれます。ニホンイタチが代表的な例です。本来、ニホンイタチは小規模な離島には生息していませんでしたが、ネズミ駆除などを目的として伊豆諸島などに持ち込まれました。

僕は外来種という用語を使っていますが、外来種と似た言葉で「外来生物」という言葉を目にしたり、耳にしたりした方も多いと思います。外来種外来生物、実は意味が異なるんです。

簡単に説明させていただくと、
国外由来つまり日本以外から入ってきたものを外来生物
国内外を問わず、本来の生息場所とは異なる場所に生息しているものを外来種と呼ぶんです。

個人的に外来生物というと外国から来た生物だけ悪いみたいなイメージがあるので、今回は外来種という用語を使用したいと思います。

そもそも、外来種は何が問題なのでしょうか?

<生態系への影響>
在来種を食べる(捕食)、在来種の生息場所・餌の奪い合い(競合)、近縁の在来種との交雑(雑種)

<人への影響>
毒、咬む、刺すなどの身体への悪影響

<農林水産物への影響>
食べる、踏み荒らすなど、農林水産物への被害

主に以上のことが問題に挙げられます。そのため、一般的には駆除の対象となっています。
確かにウシガエルやアメリカザリガニのような産卵数の多い生物は数が簡単に増えるため、在来種に与える影響も多いと言われています。
こうした問題があるため、世間では外来種はまとめて、悪者というイメージが広まっていると思われます。

ただ、農林水産業への被害や、人への被害というのは外来種だけに限らず、イノシシやシカ、マムシやスズメバチのような在来種においても被害があるので、「外来種だけが悪い」という認識は良くないなーと思います。

 

さあ、硫黄島のインドクジャクはどうなんでしょうか?

多くの人にお話を伺ったところ、確かにかなり悪さをしていたことがわかりました。

<農畜産業への影響>
硫黄島では<農畜産業への影響>が主に問題となっていました。問題として挙げられたのは家庭菜園への被害、畜産への被害、フン害など様々でした。家庭菜園の被害としてはクジャクが色んな野菜の新芽を好んで食べることがわかりました。また、観賞用の植物(パンジーやペチュニアなど)も食べられていたそうです。

実はインドクジャクは硫黄島以外でも野生化しています。
それが沖縄県の宮古島や石垣島、竹富島、小浜島など有名な先島諸島の島々です。先島諸島でも家庭菜園などの農作物に対して硫黄島と同様の被害が出ていました。そのため、先島諸島では住民からの要望などでインドクジャクは積極的に駆除されています。2 年間で 754 個体駆除されたというデータも!
多いですね…。

一方、硫黄島ではインドクジャクに作物が荒らされるため、ほとんどの方が家庭菜園をやめてしまいました。
かなり深刻です。。。
でも、こんな意見が。
「荒らされて腹立つから、やめた。やめると腹立たなくて済むから」
なるほど!!!!
駆除を進める先島諸島とは異なり、硫黄島では駆除をしないインドクジャクとの適度な距離を保つ付き合い方が自然と取り入れられ、今に至るんですね。平和的です。

畜産業への被害としては、牛のエサをクジャクが食べることが挙げられます。
さらに深刻なのが、クジャクが牛のエサの上にフンをするため、牛がそのエサを食べなくなるということです。かなりの量の飼料が無駄になってしまうため、深刻な問題です。
自分以外の人(牛)の食べ物の上にフンなんて、お行儀悪すぎますね!

こういった被害はあるものの、硫黄島のインドクジャクは住民の方々とある程度の距離を保って生活できているため、駆除されずにのんびり暮らしています。また、「腹立つ」という意見もあるなか、今では「クジャクはいて当たり前の存在」、「島の仲間」というポジティブな意見も聞くことができました。

外来種の認識が他とは異なる場所となっています。
面白いですね。

次に<生態系への影響>です。
鹿児島県が作成した外来種リストにはインドクジャクについて、「ヘリグロヒメトカゲ等の学術的に貴重な種を捕食している」と述べられています。また、鹿児島県が設定しているカテゴリーにおいては緊急防除種に指定されています。「本県に大きな影響を及ぼしており、緊急に防除対策が必要な種」となっています。

インドクジャクが捕食しているとされる、ヘリグロヒメトカゲとは沖縄から奄美、トカラ列島に生息する固有種のトカゲで、本土には生息していない珍しい種類です。

特徴としては、幼体の時から体の色がこげ茶色であることです。
普段は落ち葉の中などでひっそり暮らしています。なので、一般的に知られるニホントカゲ(下の写真)に比べて前脚・後脚が短く、早く動くことができないのが特徴です。

さあ実際、一体このヘリグロヒメトカゲはインドクジャクにどれほど捕食されているのでしょうか?
今後は捕食された個体数のデータを集めてみたいと考えています。

僕が硫黄島で調査している期間中、実は多くのヘリグロヒメトカゲを発見することができました。そんなトカゲたちがクジャクにどれだけの数を捕食されると大きな影響が及ぼされてると言えるのか。これを具体的に調べてみようと思っています。

その調査は一日だけの調査ではなく、何年間も継続的に行って観察出来たらと考えています。

そう思うのはなぜか?
僕がお世話になっている獣医の先生から頂いた、調査者として大事だなと思っている言葉があります。
「僕は40年間ずっと毎週のように自分のフィールドの山に入って猛禽(ワシやタカ)の調査をしているけど、分かったことなんて思ったことない。だからずっと調査しているんだよ。」
動物や人は今から未来に向けて変化しながら生きているから、今その瞬間に観察された行動がたまたまかもしれない。でも、観察記録をコツコツと積み重ねることで自分のやってきたことに説得力が付いてくるんだな。
なので、この先生の言葉を忘れずに僕も調査をしたいと思っています。

そして、もし仮に集まった調査結果を見て、インドクジャクがヘリグロヒメトカゲをたくさん食べていたら、それは硫黄島の生態系を考える上で重要なデータになり、少ししか食べられていなければインドクジャクの形勢逆転、これもおもしろいデータとなります。

そのため、今後徹底的にインドクジャクの観察調査をしたいと考えています。興味がある方は是非!一緒にTogetherしましょう!!!!

 

さて、どのように調査するのか??

僕では知識不足なので、専門家の方のアドバイスを頂きに行き、動物の生態調査の際にデータを記入する「野帳」を作成しました。

今後はインドクジャクの観察記録をこの野帳に書き記します。徹底的にクジャクを追跡して、何を食べているのかなどを記録します。その際、ヘリグロヒメトカゲがインドクジャクに捕食されているのかも観察します。
まだまだ明らかになっていない硫黄島のクジャクの生態を明らかにするため頑張ります!

話が脱線してしまいましたが、外来種だから悪いと決めつけずに、起きている事実から判断することが大切だと思います。

硫黄島のインドクジャクの場合、確かに住民の方々には被害が出ていることがわかりました。その一方で、クジャクに対するポジティブな意見も多くありました。外来種って何なんだろうと考えさせてもらう経験になりました。

今回は硫黄島のインドクジャクをもとに外来種について書かせていただきましたが、残念ながら世界中で在来種=善で、外来種=悪という認識が広まっています。

ただ、広く広まった認識がいつも必ず正しいわけではないということに気をつけたいと思っています。

外来種の被害や影響を受けている人たちがいることは事実です。
当事者の立場から、「畑を荒らしやがって!!!」と言ったり、憎い存在と認識することは問題ないと思います。

しかしながら、多くの人によく考えてほしいのが、身近に住んでいる外来種になにか被害や影響を受けたことがあるか?ということです。おそらく、多くの人が外来種に悪意を持った経験があまりないのではと思われます。

はたして本当に外来種=悪なのか?

長くなってしまったので、次回はここからお話ししたいと思います!

つづく。

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